(著者)森 治 もり おさむ
(出版社)岩波書店 岩波ジュニア新書
皆さんは,ギリシャ神話に出てくるイカロスを知っていますか?イカロスは,蝋(ろう)で固めた翼によって自由自在に飛ぶ能力を得たのですが,太陽に向かってどんどん飛んだために翼が溶けて、墜落して死んでしまいました。無謀というのは簡単ですが,その勇気や好奇心は見習いたいものです。そういえば,鉄腕アトムの最後も人類のため太陽に向かっていったように思います。
「イカロス」は,宇宙で14m四方の帆(セイル)を広げます。この帆が受ける風は,太陽からの光です。帆で光を反射するときに,ほんとうにわずかですが力を受けることが分かっています。宇宙には空気がありませんから,わずかな力でも十分に利用できるのです。海のヨットと同じで,光の風を受けて,「イカロス」は宇宙空間を自由に航行できるのです。
著者は,JAXAで「イカロス」のプロジェクトリーダーを務めている研究者です。ですから,すみからすみまでよく知っていて,この本では,それを実にわかりやすく,興味深く伝えるのに成功しています。また,著者自身が,どのように宇宙に興味を持ち,研究者への道をたどったのか,そのことも詳しく触れられています。特に第4章と第5章はお勧めです。宇宙に興味がない人,イカロスってなに?という人にも是非読んでほしいと思います。皆さんが自分の人生をどう考えて過ごしていくのか,夢とはどういうものなのか,この著者の考えが気負わずに述べられています。決して順風満帆という訳ではなかったようですが,そのときそのときにベストを尽くしてきた結果,今がある。たとえ宇宙への夢が叶えられなくても、納得した人生を歩めていただろうと著者はいいます。
この本で,もう一つ知ってほしいことは,大学生や大学院生が活躍していることです。若い人たちが最先端のプロジェクトに参画しているのです。皆さんも,数年後には,そうなっているかもしれませんね。
宇宙ヨットのことを学べて,研究者としてのありようも感じ取ることができる,そんなすばらしい本に君たちは出会うことができます。ぜひ,この本に出会ってください。この本は,皆さんと出会えることを待っていることでしょう。