相対性理論 常識への挑戦

(著者)Russell Stannard
(訳者)新田 英雄 にった ひでお
(出版社)丸善出版

相対性理論は,科学好きの人は誰でも興味を持っていると思いますが,高校の教科書では,ほとんど扱われていません。かろうじて,物理の教科書の最後の方で,E=mc^2(^2は2乗の意味)の式が出てくるぐらいです。現代の科学は相対論が正しいことを当然のように扱い,カーナビなど,日常生活にもその成果が利用されています。

そこで,巷には,解説書があふれているのですが,この本は,深入りせずに,相対性理論はどのようなことを言っているのかを,特殊相対性理論から一般相対性理論まで分かりやすく解説しています。図も多からず少なからず,式も最小限必要なものを載せているだけという具合です。そのため,誰にでも読みやすい良書に仕上がっていると思います。この本を読んで,さらに深く知りたくなったら,もう少し詳しい解説書や,初学者用の専門書に進んでみるとよいでしょう。

宇宙はなぜこのような宇宙なのか

(著者)青木 薫 あおき かおる
(出版社)講談社 現代新書

副題は“人間原理と宇宙論”となっています。宇宙はなぜ,今のような宇宙であり,人間が存在しているのだろうか。こんなことを考えたことのある人は,きっとたくさんいると思います。私が大学生をしていた頃は,人間原理という言葉が出始めた頃でした。なるほどそんな考え方があるのかー!と思った覚えがあります。要は,人間が現に存在しているのだから,宇宙は人間が存在できるようにいろいろな値が決まっているんだということです。うーーん,わかったようなわからないような。

数式も出てこない本ですので,そういう意味では,読み進めやすい本です。しかし,正直なところを言うと,背景になる知識がそれなりにないと理解は深まらないのではないかと思います。科学の塊のような宇宙論で,このような議論がなされていて,真剣に取り上げられているのはぜひ知っておいてほしいですね。この本をきっかけに,人間原理について書いてある本をいくつか読んでみるとよいと思います。

また,多重世界についても書いてあります。中学生のころ,量子力学の入門書を読んでいて,この世の中はいろいろな状態が重なり合っていて,私は,その一つの世界に生きているだけではないのか,他の世界に分裂して生きている私がいるのではないか,私のいない世界もあるのではないか,分裂したそれらの世界は,交わらないので,お互いに知ることはできないのだ,と思っていましたが,全くの夢物語ではなかったようです。

青い光に魅せられて

(著者)赤﨑 勇 あかさき いさむ
(出版社)日本経済新聞出版社

2014年,「高輝度青色発光ダイオードの発明」の功績によりノーベル物理学賞を受賞(共同受賞)した著者が,長い研究人生を振り返りつつ,若い世代に伝えようと語り下ろした本です。

その結果,まさに語り口調で読みやすい本になっています。最も,本書はノーベル賞受賞以前の2013年に発行されています。この本で著者が伝えたかったことは,序章にありますが,「あきらめなければ道は開ける」ということです。

さっそく読み始めてみると,小さい子供時代から,何事にも興味を持って接していたようで,それは人との関係でも同じようで,多くの人との出会いが著者人生を支えているといっても過言でないようです。そして出会った人との関係を,ずっと大切にしてきたことが分かります。物との出会いも同じで,それは,研究のテーマということですが,うまくいくときも,いかないときも,あきらめずに,工夫を重ね,追い続けたということです。終章には,それまで賞とは無縁だったのが,還暦を過ぎてから賞をいただくようになったと書いてあります。

物理学の場合,非常に若くして,20代で世界的な研究成果をあげる人もいます。その一方で,地道に一生かけてコツコツと研究に励む人たちもいるのだということを,あらためて気づかせてくれる一冊です。

すごい宇宙講義

(著者)多田 将 ただ しょう
(出版社)イースト・プレス

以前に紹介した「すごい実験」に続く,とってもわかりやすい「宇宙の話」です。なぜわかりやすいのかというと,カルチャセンターで一般の人向けに行った講演をもとにしているからです。この講演は,3時間の講義を4日間にわたって行ったそうです。1回3時間,それを4回,面白くなくっちゃどうにもならないですよね。多分,ただではないでしょうからね。

さて,内容はというと,宇宙に興味がある人なら,誰でも一度は聞いたことがあるような項目のオンパレードです。第1章がブラックホール,第2章がビッグバン,第3章が暗黒物質,第4章が宇宙の始まりです。どれもむつかしそうな話だと思うかもしれませんが,興味さえあれば,だれにでもわかるように書かれています。それでいて結構深い。ikeTが思うに,この本を読めば,サイエンスがきっと身近なものになるのではないでしょうか。こんな楽しい世界をもっと深く知るには,高校や大学での勉強が欠かせないですね。わー,ちょっと説教臭くなってしまった。そんなことはまったく考えずに,この本を楽しんでね。

すごい実験

 (著者)多田 将 ただ しょう
(出版社)イースト・プレス
何がすごいかって,著者はまさにヴィジュアル系なのだ。インターネットで検索すれば,写真がいっぱい出てきます。もっとすごいのは,本当にすごい実 験をやっているばりばりの研究者なんです。さらにすごいのは,著者いわく「不真面目で頭の悪い高校生だった」と謙遜されるが,専門のニュートリノの実験に 関して,すごくわかりやすく書かれていることです。
この本は,東京の高校で行われた2011年に行われた4回の授業がもとになっています。皆さんと同じ高校生相手に実際に語られただけに,目次を見るだけで読んでみようという気になりますよ。
この本を読んで,ニュートリノや素粒子に興味を持ってもらえたらikeTはとってもうれしい。是非,手にとって見てください。

知られざる天才 ニコラ・テスラ エジソンが恐れた発明家

(著者)新戸 雅章 しんど まさあき
(出版社)平凡社 平凡社新書

皆さんはニコラ・テスラを知っていますか。19世紀後半から20世紀前半を生きた工学者であり,技術者です。

エジソンは誰でも知っていますよね。電球を発明した人ですね。ほかにも蓄音機や電話機なども発明しています。エジソンは電気を供給する電力会社も作りましたが,送電は直流で行っていました。今は,交流ですね。交流送電を推し進めたのが,このニコラ・テスラなのです。ニコラ・テスラは,このほかにも,無線通信や無線送電,無線操縦,交流モーターなどの研究も行っています。ちょっと先を行きすぎていたのかもしれません。その業績はエジソンをしのぐほどで,まさに天才発明家なのです。

日本では,エジソンの影に隠れて知名度はほとんどないのでが(高3で磁束密度の単位として習うぐらいです),実は現代の世界に大きな貢献をしているのです。このニコラ・テスラに魅せられて,その姿を世に広めようとがんばっているので著者の新戸さんです。

肩ひじ張らずに,気楽に読み進めることができます。そして,現在の電気の時代がどのように拓かれてきたのかが分かります。本書は,気楽にすぐに読めます。

宇宙ヨットで太陽系を旅しよう 世界初! イカロスの挑戦

(著者)森 治 もり おさむ
(出版社)岩波書店 岩波ジュニア新書

皆さんは,ギリシャ神話に出てくるイカロスを知っていますか?イカロスは,蝋(ろう)で固めた翼によって自由自在に飛ぶ能力を得たのですが,太陽に向かってどんどん飛んだために翼が溶けて、墜落して死んでしまいました。無謀というのは簡単ですが,その勇気や好奇心は見習いたいものです。そういえば,鉄腕アトムの最後も人類のため太陽に向かっていったように思います。

「イカロス」は,宇宙で14m四方の帆(セイル)を広げます。この帆が受ける風は,太陽からの光です。帆で光を反射するときに,ほんとうにわずかですが力を受けることが分かっています。宇宙には空気がありませんから,わずかな力でも十分に利用できるのです。海のヨットと同じで,光の風を受けて,「イカロス」は宇宙空間を自由に航行できるのです。

著者は,JAXAで「イカロス」のプロジェクトリーダーを務めている研究者です。ですから,すみからすみまでよく知っていて,この本では,それを実にわかりやすく,興味深く伝えるのに成功しています。また,著者自身が,どのように宇宙に興味を持ち,研究者への道をたどったのか,そのことも詳しく触れられています。特に第4章と第5章はお勧めです。宇宙に興味がない人,イカロスってなに?という人にも是非読んでほしいと思います。皆さんが自分の人生をどう考えて過ごしていくのか,夢とはどういうものなのか,この著者の考えが気負わずに述べられています。決して順風満帆という訳ではなかったようですが,そのときそのときにベストを尽くしてきた結果,今がある。たとえ宇宙への夢が叶えられなくても、納得した人生を歩めていただろうと著者はいいます。

この本で,もう一つ知ってほしいことは,大学生や大学院生が活躍していることです。若い人たちが最先端のプロジェクトに参画しているのです。皆さんも,数年後には,そうなっているかもしれませんね。

宇宙ヨットのことを学べて,研究者としてのありようも感じ取ることができる,そんなすばらしい本に君たちは出会うことができます。ぜひ,この本に出会ってください。この本は,皆さんと出会えることを待っていることでしょう。

スーパー望遠鏡「アルマ」が見た宇宙

(著者)福井 康雄 ふくい やすお
(出版社)日本評論社

南米のチリ北部にある標高5000mの大変広い高地アタカマ。そこに建設された「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計」,略してALMA(アルマ)に関する本が新しく出ました。

序章は,アルマ望遠鏡の仕組みが記述されています。数多くの電波望遠鏡を組み合わせ,データをコンピュータ上で結合して観測するというものですからその理屈を理解するのも少々大変です。また,電波は光にくらべて波長が長いですから,光で観測するのとはまた違った宇宙像が得られます。

第1章からは,アルマの観測データを用いつつ,この宇宙のようすを丁寧に紹介しています。それでも,すこしレベルが高い本のように思います。このような本で最新の情報に触れながら,読みやすい入門書もあわせ読んで,知識を深めていくのが大切だと思います。天文学や宇宙に関する入門書はたくさんありますから,ぜひ,この本にチャレンジしてみませんか。うまく皆さんの興味とマッチすれば,どんどんいろいろな本を読んでいけばよいのです。そんなきっかけになりそうな本だと思います。

ハッブル 宇宙を広げた男

(著者)家 正則 いえ まさのり
(出版社)岩波書店 岩波ジュニア新書

今年の夏は,西はりま天文台と花山天文台に行ってきました。
西はりま天文台では,口径2mの反射望遠鏡「なゆた」を実際にのぞいてきました。また,街中ではけっして見ることができないほどの夜空に広がる星々を見ることができました。まさに,夜空からこぼれ落ちそうなほどの星でした。

さて,ハッブルという天文学者の名前を皆さんはご存知ですか。20世紀前半に活躍した20世紀を代表する天文学者で,宇宙が膨張していることを発見し,アンドロメダ大星雲までの距離を測定し,銀河が無数にあることを示したスーパースターです。

この本は,著者みずからが資料に実際にあたり,関係者にインタビューしてまとめ上げたものです。著者自身が,ハワイにある「すばる」望遠鏡や,次世代の「30m望遠鏡TMT」の建設に重要な役割を果たした,世界的な天文学者なので,本のいたるところに専門家ならではの視点が見られます。

本書を読むと,ハッブルは,誰もが認める天才であるとともに,少々変わっていたようです。この本は,ハッブルを通して,天文学への興味をかき立ててくれるすばらしい本だと思います。宇宙はいつもロマンに満ちています。そんな宇宙に挑戦し続けた先人達。そのようすが生き生きと描かれています。

宇宙の歴史の長さと競うかのように,本書は出版までに20年もかかったそうです。ぜひ手に取ってみてください。

地底から宇宙をさぐる

(著者)戸塚 洋二 とつか ようじ / 梶田 隆章 かじた たかあき
(出版社)岩波書店

いまや神岡はニュートリノ物理学の一大拠点といえるほどになっています。その神岡を舞台に,2015年度のノーベル賞を受賞したのが著者のひとり梶田隆章さんです。

中心となったのは,神岡に建設された「カミオカンデ」とよばれる実験施設でした(現在は後継のスーパーカミオカンデが活躍しています)。

この本の主要部分は,戸塚洋二さんが書かれたものです。戸塚洋二さんは,カミオカンデの中心人物で,惜しくも2008年に亡くなられたのですが,ご存命であれば,ノーベル賞を間違いなく受賞されたに違いありません。

わずか100ページあまりの薄い本ですが,素粒子物理学の歴史がとてもわかりやすく,多くのエピソードを交えながら書かれています。気負うことなく読み進めることができます。そして,戸塚さんが進めた「カミオカンデ」の立ち上げの様子も詳しく述べられています。研究するということ,何かを作り上げるということ,それがどういうことなのかあるがままに述べられています。私は,その行間から大変な責任感と苦労を感じるとともに,ポジティブであることの大切さを強く感じました。

皆さんにも手にとって読んでもらいたいと思います。中学生にも読めると思います。