ALMA電波望遠鏡

(著者)石黒 正人 いしぐろ まさと
(出版社)筑摩書房 ちくまプリマ-新書

皆さんはアタカマという地名をご存知ですか? 南米のチリ北部にある標高5000mの大変広い高地です。そこに建設された「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計」,略してALMAにまつわる物語です。

日本が世界に誇る望遠鏡といえば,ハワイにある「すばる」望遠鏡が有名ですが,「すばる」は可視光線付近の光で観測します。それに対して,ALMA はそれよりもずっと波長の長いミリ波,サブミリ波の領域の電波を用いて観測します。直径12mと7mのパラボラアンテナを66台並べ,連動させて観測する 巨大な電波望遠鏡なのです。もちろん大がかりな国際的プロジェクトです。

目で見るのと,電波で見る宇宙はどのように違うのでしょうか。X線で見る宇宙も,ガンマ線で見る宇宙もあり,それぞれに宇宙の特徴を明らかにしてく れます。どちらかというと,電波望遠鏡を作り上げていく歴史に立ち会った著者の,生の経験が行間からにじみ出てくる本で,ものづくり系のことが好きな人に は文句なくおすすめの1冊です。きれいな写真も多く載っていて,新書ですのですぐに読めてしまいます。苦労は並大抵ではないけれども,こんな仕事に携わる ことができたらおもしろいだろうなあというのが読後感です。

興味のある人は是非手にとって読んでみてください。

大村 智 2億人を病魔から守った化学者

(著者)馬場 錬成 ばば れんせい
(出版社)中央公論新社

大村智(おおむらさとし)さんが2015年のノーベル生理学・医学賞を受賞したのは,皆さんよくご存じだと思います。そして,その経歴が異色であることも新聞などでよく取り上げられていました。

この本は,そんな大村さんのこれまでを取材・インタビューし,2012年に書かれたものです。大村さんは,大学を卒業し,東京で定時制高校の先生として勤め始めた後,志して,大学院で学び直して研究者への道を歩み始めたそうです。
ここで,いろいろ書くよりも,まず皆さんに読んでいただくのが一番だと思います。運ということもあるのかもしれませんが,人生で大きなことを成し遂げることができる人は,その運をつかめるだけの志を持ち努力を積み重ねてきた人なのではないでしょうか。
高校生の皆さんは,大村さんに負けないほどの可能性をいっぱい持った存在で,これからの人生を自分で切り開いていくことができます。

この本は,科学の本ではありません。若い人向けの人生論のようにiketは思います。大変読みやすく,一晩で読み終えてしまいました。皆さんにも是非,手にとって読んで欲しい本です。

物理学はいかに創られたか(上・下)

(著者)アインシュタイン/インフェルト (訳)石原 純 いしはら じゅん
(出版社)岩波書店 岩波新書

前回紹介した「物理学とは何だろうか」は16世紀から20世紀の入り口までの物理学の流れをまとめた本でした。この本は,それに引き続く20世紀 の物理学の2大理論,そうです,「相対性理論」と「量子力学」への物理学の流れをわかりやすく記しています。もう何十年も前の本なので,少し古い部分もあ りますがこの本の価値を損なうものではありません。著者の一人アインシュタインは誰もが知っている人ですね。余談ですが,今年は,アインシュタインが一般 相対性理論を発表してちょうど100年に当たります。

この本は,物理学を学ぶ人にとっては,読んでおくべき本だと思います。専門書だけでなく,こういった一般解説書や物理学者・科学者の書いた随筆なども読むとよいと思います。科学に対する態度や感性が磨かれると思います。

基礎知識がないとわからない部分もありますが,とにかく読んでみることをお勧めします。わからなくったって平気です。最後まで読めば,なんとな く,頭に残る部分があるでしょう。大学で,物理学をさらに学んだとき,思い出してこの本をまた手に取るといいですね。そのときには,もっとよくわかるよう になっているに違いありません。

物理学とは何だろうか(上・下)

(著者)朝永 振一郎 ともなが しんいちろう
(出版社)岩波書店 岩波新書

日本で最初にノーベル賞を受賞したのは,湯川秀樹さんで,1949年のことでした。この湯川秀樹さんと研究を競い合っていたのが朝永振一郎さんでした。ともに,世界をリードする業績を上げ,朝永振一郎さんも,1965年に日本で2人目のノーベル賞受賞者となりました。

朝永振一郎さんは,専門書でも,一般向けの解説本でも大変評価の高い本をたくさん著しています。それらの多くは,今日でもよく読まれています。この本もそんな一冊です。物理を学ぶ人はぜひ読んでおきたい本だといえます。

近代科学は16世紀ぐらいに源流があります。歴史的な流れを追いながら,20世紀の手前まで(相対論・量子力学の前まで)をわかりやすくていねい に書かれているので,たいへん読みやすい本になっています。そうはいっても,高校生にとっては,学校で学んだだけでは基礎知識が足りていないので,全部は 理解できないかもしれません。それでもいいので,とにかく読んでみるのも勉強だと思います。というか,学校ですべて学べるわけがなく,学校での学びをきっ かけにして,自分で学びを広げていくのが勉強ですよね。

少しずつ背伸びをして読書をしていくというのは,読書の醍醐味でしょう。あるいは少しずつ守備範囲を広げて,読書をしていくというのも大切なこと です。

村山さん,宇宙はどこまでわかったんですか? ビッグバンからヒッグス粒子へ

(著者)村山 斉 むらやま ひとし
(出版社)朝日新聞出版 朝日新書

ニュートリノが話題に上る時代になってきました。素粒子のことがわかると,宇宙のことがわかるというか,宇宙のことを知るためには,素粒子のこと をわからなければならないのです。これまでにも,素粒子のこと,宇宙のことを正面からわかりやすく解説したいくつもの本を紹介してきましたが,この本は少 し異なったアプローチを行っています。

この本は対談本なのです。科学に造詣の深い聞き手が,読者の代わりとなって,著者とのやり取りの中で,本当にいろいろなことに話題を広げていきま す。普通の本なら書かないだろうなと思う,苦労話や舞台裏などもいっぱい出てきます。説明も,目の前の聞き手にわかってもらおうと,より具体的にわかりや すいたとえが使われているように思います。

しかし,読み終えてみると,今まで読んできた本と合わせて知識が広がり豊かになったような気がします。立体的になったというか,3Dのような感じ といえばどうでしょうか。一冊の本から得られる知識は,その本の範囲で首尾一貫していてまとまっていますが,その外のことについては,知らないままになり ますね。ですから,一つのテーマについて,何冊かの本を読んで知識の多角化を図らないといけないのです。これは,文理関係なくいえることですね。

とてもわかりやすい本です。ぜひ読んでみてください。

14歳からの 宇宙論

(著者)佐藤 勝彦 さとう かつひこ
(出版社)河出書房新社

おもしろい本を図書館で見つけました。

著者の佐藤勝彦さんは,知る人ぞ知る世界的な宇宙物理学者です。宇宙のことや相対論のことなど,一般向けに多くの本を著しています。この本は14歳からと書いてあるので,中学生はもちろん読めると思いますが,入門として,高校生にちょうどよいのではないでしょうか。

「宇宙の膨張」・「ビッグバン」・「インフレーション理論」・「量子重力理論」・「ブレーン宇宙論」・「暗黒エネルギー」・「超弦理論」と並ぶ目次を見ると,興味がそそられます。でも,こんなに大風呂敷を広げて大丈夫ですか?心配になりますが,大丈夫なんですね。

数式は基本的に使っていません。初めて聞く言葉も多いと思いますが,ていねいに説明をしてありますので,しっかり読んでいけば読み通せると思いま す。多少わからなくてもどんどん読み進んでいきましょう。この本をきっかけに,宇宙に関するいろいろな本を手にとって読んでいけば,皆さんは宇宙のエキス パートになれます。

暗黒物質とは何か 宇宙創成の謎に挑む

(著者)鈴木 洋一郎 すずき よういちろう
(出版社)幻冬舎 幻冬舎新書

ノーベル物理学賞でニュートリノ振動が一躍脚光を浴びています。著者はスーパーカミオカンデの立ち上げとその後の実験に中心的に関わってこられた方です。

本書には,実験屋として活躍してきた経験から,暗黒物質の探索について興味深い話がいっぱい詰まっています。実験をするとはどういうことなのか,少しは分かったような気がします。

さて,暗黒物質とはなんでしょうか。実は宇宙の質量の7,8割を占めている(物理学者はあるという証拠をつかんでいるようです),未だ観測にかかっ てこない,正体不明の物質なのです。この暗黒物質を検出するために,スーパーカミオカンデと同じく神岡鉱山の地下に作られた巨大な実験装置が 「XMASS(エックスマス)」なのです。著者はその実験の代表者です。巨額の予算を使っての建設ですが,その苦労もさりげなく書かれています。

また,神岡はいまや素粒子物理学実験の世界の中心地と言っても過言ではないと思います。そこでは,重力波検出を目指すKAGRA(カグラ)も建設中 です。東北大学のカムランドも成果を上げています。今現在のようすが伝わってくるこの本を,是非手にとって読んでみてください。

ゾウの時間ネズミの時間

(著者)本川 達雄 もとかわ たつお
(出版社)中央公論新社 中公新書

動物の体のサイズには違いがあります。大きな動物,小さな動物,寿命もいろいろ,動きもいろいろです。一見,ばらばらなようですが,そこに物理学の目が入ると景色が全く違って見えてきます。

著者は生物学者ですが,発想が尋常ではないように思います。この本で使われている物理学の内容は高校で習うことではないものが多いのですが,難しく はありません。よく読めば理解が可能でしょう。このようなところで物理学的な考え方が応用できるのか,と思わずうなってしまいます。

このような本に出会えるのは,図書館の威力ですね。インターネットなどでは,ある程度目的がはっきりしているものは調べられますが,思いがけない出 会いは少ないように思います。図書館や本屋さんで時間を気にせずにあちこちの本棚の本を手に取ってみるのはとても大切なことだと思います。

皆さんもまずはこの本を手に取ってみませんか。

科学者はなぜウソをつくのか 捏造と撤回の科学史

(著者)小谷 太郎 こたに たろう
(出版社)dZERO

近年STAP細胞で日本の科学界が揺れに揺れたことは記憶に新しいことです。多くの優秀な科学者がそろっていながらなぜこんなことが起こるのでしょうか。

実は,こういったことはこれまでにも何回となく繰り返されてきたのです。かなりの長期間にわたって発覚しなかった例もあります。日本の考古学界で も,神の手とよばれた発掘の名人がいかさまを行っていたことが2000年に明らかになりました。ほぼ4半世紀にわたって,不正を行っていたようです。 世界でも,同じような例が数多く見られます。

この本では,8つの事例を取り上げて,その経過をわかりやすく記述しています。その結果,共通点が見られます。本人以外再現できないこと,周囲の人 が確認を怠っていることなどです。怪しいと思いながらも,盛り上がってしまって言い出せないのですね。 決して人ごとではありません。実験のデータをいい加減に扱ったり,友達のレポートを適当に書き写したりしている人は,立派な予備軍かもしれません。いずれ ばれるのがわかっているのになぜ?きっと,始まりは些細なことだったのだろうとiketは思います。引き返せなくなってしまうほど大きな反響を呼んでし まったのでしょうね。

皆さんも是非考えてみて欲しいなと思います。

巨大科学

2015年8月に,信州は飛騨・高山のスーパーカミオカンデやカムランド・飛騨天文台を生徒と一緒に見てきました。スーパーカミオカンデとカムランド は地下1000mに建設された施設です。神岡鉱山の坑道を利用して建設したものです。今はさらに,暗黒物質を検出するXMASSや重力波を検出する KAGRAという装置を建設しています。

素粒子と加速器に夢を抱いて大学に進みましたが,とっても小さな素粒子を調べるのに超巨大な加速器が必要になるというのは大いなる逆説ですね。いまや,一国ではまかないきれず,いくつかの国が共同して加速器を建設する時代になっています。

こういった巨大な施設も第一線の研究者が,設計し,予算を獲得し,何千人にも及ぶ研究者や技術者などなどをまとめていかなければいけないんですね。 すごいことだなーとびっくりします。構想からデータがとれて論文になるまでに何年かかるのでしょうか。無事によい結果は出るのでしょうか。

日本の素粒子研究は世界の最先端を行っていますが,裏に回ると大変な世界だということを実感して帰ってきました。

もっといろいろなところにもいってみたいものです。JAXA,KEK,・・・,いっぱいありますね。